アドラー心理学研究会代表の佐高葵月代です。
今年10月から6回にわたり、ヒューマン・ギルド主催、アドラー心理学研究会共催で、「アドラー心理学ベーシック・コース」を開催します。この講座の詳細は、こちらの特設ページをご覧ください。
私がこの講座を初めて受講したのは2009年12月のことです。当時は、認知症の母を故郷の青森から札幌に移住させて、介護を始めて半年が経っていました。慣れない介護と日常生活のパターンが崩れ、私はとても疲れていました。
札幌と開催地の仙台を行き来することは、体力的時にも時間的にも、とてもきつかったのです。しかし、その時に夫が「行ってきたらいいよ。留守中のお母さんのことは、任せてね」と背中を押してくれたのが、本当に有難かったです。
講座終了後にヒューマン・ギルドの会報誌に感想を掲載していただきました。その全文をご紹介します。
※文中、個人名が入っている箇所はカットしました。
心に勇気づけのシャワーを浴びて
2009年5月、仙台でのSMILEに引き続き、12月には仙台アドラー・ベーシック講座に、4日間にわたり参加しました。
私は北海道札幌市で、株式会社アットマークというホームページの制作会社を経営しています。前回のSMILEのあとは、勇気づけを意識して行うことで、スタッフに対する見方が前向きに変化し、仕事におけるクライアントとのコミュニケーションが発展したのを確信できました(SMILEの感想は、昨年6月(274号)のヒューマン・ギルドのニューズレターに掲載させていただきました)。
しかし、アルツハイマーと診断された母とのコミュニケーションについては、依然として課題が多いと感じていました。といっても母と私の親子関係は、決して悪いものではありません。今も昔も母を心から愛して尊敬しているだけに、病気によって人が変わってしまった母を受け入れることが難しかったのです。その気持が時に怒りとなったり、深い悲しみとなって翻弄されてしまう自分の不甲斐なさに、やりきれなくなりました。心の奥底にある根深い劣等感を感じ、介護をしていて途方に暮れてしまうことも多々ありました。
このような想いを抱えてベーシック講座に臨んだのですが、講義の中で「不完全である勇気をもって自己受容を行う」など、劣等感のとらえ方をあらためて学んだり、「劣等感は、よりよく生きようとすることに伴う感情」であり、「劣等感はかけがえのない友」であるという言葉にハッとさせられたりして、気づきが起こったようです。忌み嫌う感情から逃げようとすればするほど、それにとらわれてしまいがちですが、それを認めて受け入れると、それをバネにしていけるということを、深く受け入れることができました。
ワークの中で、自分の人生をマトリックスにして振り返るというものがありました。あらためて客観的に見直してみると、私の人生の転機や節目には、必ず母の大きな支えとアドバイスがあったことに、あらためて気付かされました。それは当り前のこととして、記憶にあったことなのですが、あえて「書き出すこと」で認識が変わったような気がしました。
講座の後、ふだんの生活に戻ってみて不思議な事に気がつきました。以前と同じように母と接していても、私の感情の起伏がほとんどなくなったのです。それまでは、何かにつけて過剰反応していた部分があったのですが、それが穏やかに変化していたのです。おごった言い方をすれば、母の全体を受け入れることができたとでもいうのでしょうか。私を産んでくれた母は、アルツハイマーになっても変わらずに母でいてくれているのだ、という感謝の思いが表面に現れ出たようです。
このような気づきが起こったのも、受講者の皆さんにたくさんの勇気づけをいただき、安心して自己開示ができたことが大きな要因かと思われます。講義をしてくださった岩井俊憲先生、そして受講者の皆さんにも、心よりお礼申し上げます。
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講座受講前は、人格が変わり異常行動が増えてきた母に対して憎しみを感じたり、激高しそうになるのを抑えるのに必死でした。母は病気だと納得していても、どうしても感情が先走るのです。そのことを岩井先生に伝えると「それは憎しみではなく、かつてのお母さんと同じように過ごすことができなくなった寂しさじゃないのかな。本当は、心から愛しているお母さんなんでしょう」と勇気づけられました。アドラー心理学では、感情には相手役や目的があり、道具として使うという考え方があります。表面的な感情ばかりに振り回されていたことに気づき、落ち着きを取り戻したのです。
その後も定期的にこの講座を再受講し、2015年からは3年ごとに札幌で先生方をお招きして開催してきました。
しかし、このコロナ禍では対面での開催は難しく、オンラインでの開催の運びとなりました。
日曜日午後を6回にわたり、比較的ゆっくりとしたスケジュールの本講座、ぜひ、多くの方に受講いただきたいです。