アドラー心理学研究会Plus代表の佐高葵月代です。5月18日(土)と19日(日・ZOOM)、第133回アドラー心理学研究会を開催しました。今月のテーマは「感情を整える~ 副産物としての感情をどう捉えるか ~」です。
※今回の内容は、ヒューマン・ギルド代表の岩井俊憲先生の著作『感情を整えるアドラーの教え』の一部を参考にさせていただいています。
アドラーは、感情についてこのように述べています。
感情が人を突き動かすのではなく、人は目的のために感情を使用する。
(アルフレッド・アドラー)
- アドラー心理学の感情の捉え方の大きな特徴として、次の2つがあります。
感情にはそれを向ける相手役がいる ⇒ これは、他者である場合と、自分自身である場合があります。 - 何かの目的を達成しようとしている ⇒ 目的が建設的でも、行動が非建設的な場合もあります。
そして、もうひとつユニークなのは、感情を「使う」という言い方をします。感情を道具のように、引き出しから出したり、ひっこめたりできるという捉え方です。
アドラーは、一般的な陰性感情、陽性感情という分類ではなく、次のようにまとめました。これは対人関係における感情を「距離」として捉えるユニークなアプローチです。
結合的感情:相手と繋がりたいと思う感情、他者を受け入れる感情
例:喜び、共感、同情、許し、信頼感、親近感 など
離反的感情:相手を引き離したり、敵対する感情
例:怒り、悲しみ、不安、恐怖、妬み、嫉妬、恨み など
離反的感情であり、ネガティブ感情の代表的なものは「怒り」でしょう。アドラー心理学では、怒りの目的を①他者を支配する ②主導権争いで優位に立つ ③自己の権利擁護 ④正義感の発揮 の4つがあるとしています。
①の他者を支配する というのは、自分より下の立場の人に対して発揮される感情で、よくあるシーンでは親が子供に言うことを聞かせようとして怒ったり、上司が部下に対してぶつける怒りなどでしょう。
②主導権争いで優位に立つ は、①と似ていて、同時に発生することもあります。例えば、口論などで拮抗している状況になると、主導権を握ろうとする怒りや、お互いの理屈をぶつけ合う口論などです。
①と②では、縦の関係が生じるため、関係が決裂したり、長期的に続く場合は関係が悪化する可能性もあります。
③の自己の権利擁護 は必ずしもネガティブなものとは限りません。知人で次のようなケースがありました。隣の車庫の屋根の角度が、自分の敷地内に雪が落ちる設計になり、自分の敷地の権利を主張したということです。権利とは「物事を主張したり行ったりする資格や能力のこと」で、 擁護は、「危害を受けることから守ること」。
④の正義感の発揮 は、絶対に正しいという強い信念から生まれるもので、法律やルールが守れない人に怒りを爆発させたり、路上喫煙や信号無視などに強い反発を感じるなどが挙げられます。
これらの怒りを使うことで、次のような結果を得ようとします。①自分の優位性を証明する ②相手を屈服させる ③達成感を得る などで、何らかの形で自分の利益を得ようとしているのです。その中で怒りっぽい人たちは、子供の頃から頻繁に怒りを使って、大なり小なりの利益を得て大人になっています。
下記の図のように、私たちは怒りという目立つ感情(二次感情)ばかりに意識が向きがちですが、実はその背景には別の感情(一次感情)が潜んでいることもあるのです。
繰り返される感情は、意味のあるものが多いものです。感情を嫌うのではなく、一次感情に目を向けたり、感情の目的を理解することで、行動さえも変わるということに気づきましょう。ネガティブな感情がたびたび現れるときは、
- この感情を使うことで、誰が得をして幸せになるのか。
- この感情は何を伝えたいのか?(どんな一次感情があるのか?)
という2つの問いを心に書き留めておきましょう。大切なのは、感情や行動が正しいか正しくないかではなく、建設的か非建設的かであるということです。
ここしばらくは、研究会の内容にレジリエンスの要素も盛り込み、テーマをアドラー心理学とレジリエンスとマインドフルネスの側からの理解を深めています。今回は感情のコントロールという意味で、レジリエンスの「自制心」についてお話ししました。
自制心とは、自らの気持ちや言動を抑え、律することです。予測していないトラブルが起きた時に、衝動的に行動することなく、冷静に自己認識を行い、そして、自分の思考や感情をコントロールすることが重要です。レジリエンスを構成する6つの要素の1つでもあります。
スタンフォード大学のケリー・マクゴニガルは「辛い状況に遭っても、よい面に目を向けると自制心が強まる」と実験の結果をまとめています。辛い体験を振り返り、「自分自身に対する理解が深まった」「ものごとの本質が見えた」「人間関係が改善された」など、良い面を探してもらいます。その結果、被験者の身体感覚にまで前向きな変化が現れ、体験の捉え方が変わり、自制心も向上したという結果が出ました。乗り越えた体験を認識することは、アドラー心理学では自己信頼(自己勇気づけの態度の1つ)の力となります。
別の実験では、個人的な価値観について書き出すという作業の結果、自信が強まり、落ち着きが生まれ、誇りや強さを感じたり、周りの人に対する愛情や思いやりが深まり、絆が強まったといいます。痛みに対して我慢強くなり、自制心が強まり、ストレスの多い経験をしたあとも、あまりくよくよ悩まなくなった結果が出ました。
自分が何を軸にして生きているかを知ることで、自分が大切に思っているものがおのずと浮かび上がってくるのです。逆に、集中力、体力、自制心の低下が著しかったのは「ストレスを避けたい」という願望が強かった被験者たちでした。
一見、自制心を高めることとは関りがないようなことでも、自分の内面を見据えていくというマインドフルな態度が、結果的に動じない心や、適切な行動がとれる判断能力を高めていくという結果に繋がります。
今月のまとめです。
① 感情は突き放したり、封じ込めたりするものではなく、生涯のパートナーである。(by ヒューマン・ギルド 岩井俊憲先生)
② 私的論理や信念が強すぎると「正しいか、正しくないか」にハマってしまうので、建設的か、非建設的かという軸で考える。
③ 自制心を向上させるには、(1)良い面に目を向ける。(2)自分の価値観を知る ことが大切。
次回 第134回の開催は、6月29日(土・札幌市民交流プラザ)、30日(日・ZOOM)です。
テーマは「アドラー心理学とマインドフルネスの『自己効力感と自尊心』の解釈」です。
自己効力感に似た言葉で、自己肯定感がありますが、内容はちがうんです!でもどちらも自己勇気づけには必要な感情です。自己効力感はレジリエンスを構成する要素のひとつでもあるので、ストレスに柔軟に対応できる心の土台作りに必要な感情でもあります。自尊心を向上させるためにも、深く学んでいきましょう! ご参加をお待ちしています。