第139回 アドラー心理学とマインドフルネスで 「何のために?」と、目的論に立ち返る客観視の磨き方

アドラー心理学研究会Plus代表の佐高葵月代です。11月23日(土・祝 ZOOM)と24日(日)、第139回アドラー心理学研究会Plusを開催しました。今月は会場の都合で、いつもと曜日が逆転して、ZOOM開催が先でした。今月のテーマは「アドラー心理学とマインドフルネスで 『何のために?』と、目的論に立ち返る客観視の磨き方」です。「目的論」は「自己決定性」「全体論」「認知論」「対人関係論」とともに、アドラー心理学の5つの基本前提のひとつです。その意味は「人間の行動にはその人特有の意思を伴う目的(究極目標、仮想的目標 と同義)がある」です。
アドラーは、次のように言っています。

人間のすべての創作活動の背後にあるのは、優越を求める努力であり、
それは、われわれの文化に加えられるすべての貢献の源泉である。
人間生活の全体は、こういう活動の太い線に沿って-下から上へ、
マイナスからプラスへ、敗北から勝利へと-進行するのである。

(アルフレッド・アドラー 『人生の意味の心理学』)

言葉の中の「活動の太い線」とは、上図のムーブメントと呼ばれるもので、これがライフスタイルに当たります。ライフスタイルはひとそれぞれ違うため、究極目標に向かう道筋は変わります。富士山頂が究極目標(目的)だとしたら、人によって選ぶ登山口も違うし、進む速度も違いますよね。

究極目標(目的)には例として「完全、優越、所属、意味、支配、熟達、称賛、快適、調和、自律、興奮、安楽、安全、貢献」などが設定されているとされています。セルフ・コンパッションのテーマの回で学んだ「中核的価値」に非常に近いと思います。究極目標は最終的に目指す「的(まと)」です。この目的に向かっていくためのスモールステップが「目標」です。

例えば、富士山頂が目的だとしたら、1合目、2合目…が目標にあたります。この目的に向かう道筋は人によってまちまちです。時間がかかる人もいれば、遠回りをする人もいます。この目的への向かい方は、ライフスタイルによって各自が決めています。

これまでも、中核的価値について話し合った時に「まだ気づけない」、「何だか難しい」という声も多く、今回も改めて考えると、最終的な目標って何だろう? 小さな目標は作りやすいけど、目的って? 目的が分かればトップダウンで目標も作りやすいけど、目的がわからない、という声も聞こえてきました。

もしかして、目的って「~しなくてはならない」に囚われていないでしょうか?
私個人としては、目的は考えるとワクワクしたり、自分の軸がぶれそうな時に「こっちだよ!」と教えてくれるミッションと同じだと思っています。

ただ、目的に向かった時に劣等感がドーンと鎮座していると、回り道をし過ぎたり、目的とは違う道をたどるかもしれないことに気が付いたのです。

今回は絵を描くのが苦手だという私の劣等感は、実は母に対する劣等感だったと気づいた話を例として挙げて、劣等感を補償する行為と、劣等感を乗り越えながら(まだ多少持ちつつ)、前に進んでいる経緯について話しました。私の母は特異な画や書を描くのが仕事でした。努力もして、専門家のところに足を運びつつ学んで、自分のスタイルを確立した人です。なので、描くということにはとりわけ厳しかったのでしょう。

劣等感を補償する行為とは、「~は苦手だけど、〇〇は得意」のようなものです。例えば、私の場合は「絵を描くのは苦手だけど、料理は好きで得意」のように。

自分が「目的に向かいたいけど、~がないからできない」と思っていることに対して、「~はないけど、それに近い〇〇なら今すぐできそうだ」と、代替案やプランBを考えてみるといいですよ。

よく聞くのは「家族を旅行に連れて行ってあげたいけど、お金がない」という話。先日もある方がそんなことを話されていたので、私の体験をお伝えしました。

数年前、夫が「ちょっと旅にいかない?」と誘ってくれました。「どこへ?」とl聞くと「秘密。着いてからね」と、新千歳空港行きの高速バスに乗りました。当然、飛行機に乗るものだと思っていたら、なんと行った先は国際線でした。「パスポート、持ってきてないって!」と一瞬焦ったのですが、夫が目的地にしたのは国際線のターミナルビルでした。そこは普段行くことがないので、知らなかったオブジェや壁画などがいろいろあって、ショップも国内線とは雰囲気が違うものがたくさん! 見ているだけで新鮮な驚きでした。半日ほど写真を撮ったり、歩き回って時間を楽しみ、最後は「新千歳空港温泉」でゆっくり温泉に浸かって帰ってきました。

これは今でも私の中で大切な旅の思い出です。お金もそれほどかからず、そして心から楽しめた時間。夫のアイデアと事前の計画に心から感謝したエピソードです。

先ほどの方がこのエピソードを聞くと、「確かに、土日だと家族でドニチカ切符を買えば、1日中札幌の地下鉄を乗り降りできるから、美術館や沿線の温泉まで足を伸ばすことできそうですね。いったん自由行動をして、どこかの駅で合流することもできる!」と、さっそくプランがいくつか浮かんだようでした。

できないことに目を向けていると、本来見えるはずの目的も見えなくなります。今できることを少しずつ行動に移して、ワクワクしているかどうかを感じてみてください。「やらされている」感や、「やらねば」感があるとしたら、目標や目的にしているものは、心から望んでいることではないかもしれません。
子供の頃、夢中になったり、熱中していたものを思い返してみるのもいいかもしれません。

私たちが今までと違うことをしようとするとき、内なる批評家が「おいおい、その年でそれやるか?」「無理無理、やめとけ。金もかかるし時間もかかる」「いまさら始めたって、うまくならないぞ」など、足止めをするセリフが聞こえてきがちです。そんな時、「また批評家君が出てきたね。君の意見も聞いておくけど、今はシーーー!」と、静かになだめて、「どうしてこれに惹かれるのかな?」「これ、やってみて誰かに迷惑かかるかな?」と自分に優しく質問をしてみます。自分に対してそれを行うことを「許す」ことで、どんな気持ちになるでしょうか。

自分を許して優しくするのは、甘やかしたり自分勝手にすることとは、まったく違います。
私たちは目標を達成するために、自分の尻を叩いて、もっとがんばれ、負けるな、進め!と拍車をかけることが多いと思います。もちろん、このようなことが必要な時もあるかもしれませんが、近年の研究では自分に対して優しい時の方が、がんばれるということが証明されています。科学的に見ても、自分自身に不快な言葉をかけないことで、思い切ったことができたり、創造的になったり、新しいことにチャレンジする意欲(やる気)が高まるのです。

変えられないことにこだわらないためには、変えていけるもの(自分の思考や感情)に責任を持ち、絶えず立ち止まり、「これって、私が本当の望んでること?」「これ、本当に今食べたいもの?」「今、どんな気分?」と自己共感とセルフ・コンパッションを心がけたいものです。そうすることで、もやがかかったようだった目的が、クリアに見えるかもしれませんね。

今月のまとめです。

①目標をひとつひとつこなして、最終的にたどり着くところが目的。そのためには、できれば目的を明確にしておくのがベター。
②劣等感から、じんわりにじみ出る自分の「やりたいこと」に気づいてみよう。
③セルフ・コンパッションが、結局は創造性や意欲に結びつく。

次回 第140回の開催は、12月14日(土・札幌市民交流プラザ)、15日(日・ZOOM)です。
テーマは「年間テーマの『ホールネス再探訪 ~ 今ここから始める、ひとつ先の在り方へ ~』を振り返る」です。ホールネスは全体論に近い考え方です。自分を丸ごと感じられた1年だったでしょうか。1年間の学びを振り返る時間にしたいと思います。

※14日のリアル開催後、17:00~19:00頃まで、近隣のレストランで忘年会を開催します。詳細はメールマガジンなどでご案内しますので、お楽しみに!

⇒ 詳細とお申込みは、こちらから。


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