第136回 「心の痛み、身体の痛み ~勇気づけは薬になるか?~」アドラー式対処法、そしてマインドフルネス(脳科学)からの考察

アドラー心理学研究会Plus代表の佐高葵月代です。8月17日(土)と18日(日・ZOOM)、第136回アドラー心理学研究会Plusを開催しました。今月のテーマは アドラー心理学とマインドフルネスで考える 「心の痛み、身体の痛み ~勇気づけは薬になるか?~」です。

アドラー心理学とマインドフルネスを同時に学ぶことで、時代がようやくアドラー心理学に追い付いてきたのか!?と思うところがどんどん増えてきます。マインドフルネスは、脳科学と共に発展してきて、瞑想などの科学的根拠が証明されています。これに似たような感じで、アドラー心理学の勇気づけにより、子供の不適切な行動がなくなったり、自分自身のやる気が出たり、悪癖を止めたりできるのか、ということがマインドフルネスと照らし合わせることで、より明確な技法が浮かび上がってきました。

人間が孤独を辛いと感じた際に活発になる脳の部位「前帯状皮質」は、身体の痛みを感じた際にもその働きが活性化します。脳においては、心の痛みと身体の痛みは同じように捉えられているのです。前帯状皮質が活性化すると、不安を取り除くセロトニンが分泌されにくくなります。また、この部位は他者の痛みに共感することでも活性化するため、相手の悩みや孤独に共感しすぎると「共感疲労」を起こすこともあり得ます。専門家は自尊心が低い人は他者の孤独の影響を受けやすいと指摘しています。

前帯状皮質は、血圧、心拍数、報酬予測、意思決定、共感、情動といった認知機能に関与している部位で、傾聴、認知療法、マインドフルネスなどの心理療法は、前帯状皮質の構造的な変化や機能的な変化を引き起こすことが報告されています。脳機能解析が進むに従い、「痛みは脳で認知する感情の一種」として捉えるようになりました。痛みは「感覚・感情・認知面を伴った苦悩体験」と定義され、必ずしも組織損傷の有無を問うものではありません。ある実験で、被験者に痛そうな画像を見せて痛みを想像させた場合、被験者の痛み関連脳領域が活性化し、実際の痛みを体験していなくても痛みを脳内で再現していることを示しました。痛みは認知・感情面の影響を受けやすいと言えます。

ワークでは、「心身の痛みを自己勇気づけ、あるいは他者からの勇気づけで乗り越えた体験」についてシェアしました。病気の時やケガをしたときに、不安やイライラを緩和してくれた家族の態度や言葉、自分自身の病気を自己勇気づけで乗り越えた体験などが挙げられました。ZOOMでは、親が亡くなった体験をした方が多く参加され、親の死をどう受け止め、乗り越えたかなどが語られました。介護や看護を経験してからの死には、どうしても後悔や自己嫌悪などのネガティブな感情がまとわりつきます。それを乗り越えた方々のお話は胸を打つものがあります。

ネガティブな感情に囚われている時、自分自身を勇気づけて困難を乗り越えていく力は、自己信頼の力が助けてくれます。このワークでは、レジリエンスをテーマにしたときも行いました。自分や他者からの勇気づけの 信頼・尊敬・共感 のいずれの態度をもって乗り越えたかを明確にすることで、私たちは次に同様の課題に向き合った時に、ストレス免疫がついて、乗り越えやすくなります。

では、実際に勇気づけをしたときに、脳内では具体的にどんなことが起こっているのでしょう。

自尊心は自己肯定感と自己効力感の2つの感情で支えられています。自己肯定感は「自分の価値、自分の存在を肯定する力」であり、自分自身が不完全である勇気を持った時や、他者や自分から「大丈夫だよ。あなたらしくていいんだよ」と肯定されたときに育まれる感情で、脳内ホルモンであるセロトニンとオキシトシンが分泌されます。

いっぽう自己効力感は「自分の力を信じて、実行に移せる力」で、小さなチャレンジ(スモール・ステップ)をクリアすることで達成感を感じ、やってみたらできた→さらなる上を目指してチャレンジ→コンフォートゾーンを出る というまい進する勇気を駆使することで育まれます。この時、脳ではドパミンとエンドルフィンが分泌されます。ホルモンは単独と言うよりはそれぞれが関連し合い、分泌を促す作用があります。

自己肯定感と自己効力感がこれらのホルモンの分泌により安定してくると、おのずと自尊心も向上するサイクルができてきます。勇気づけをすることで、脳内に変化が起こり、建設的な行動にもつながることが期待できます。

グループでは、どのような行動や習慣をもって、自他の勇気づけをしているかについて話し合いました。困難な状況において、楽観的で未来志向で俯瞰するということ、そして小さなことでもリフレーミングするという声が多かったようです。また、自分自身へのアファーメイションやセルフ・コンパッションの声掛けなど、自己勇気づけを欠かさないという方もいらっしゃいました。メンバーは、みな自尊心を上げる努力、というか習慣を実践しているな!という印象でした!

医師のガポール・マテは「自分は孤立し、ひとりぼっちで誰ともつながっていないと決めてかかるのは有害なことだ」と述べました。互いに勇気づけ合える仲間がいる、自分はひとりではない、居場所があるという共同体感覚と勇気づけは、もしかしたら私たちの心身の常備薬になるかもしれませんね。

今月のまとめです。

① 脳は心の痛みと身体の痛みを「同じもの」と捉えている。
② 痛みは脳で認知する感情の一種。ポジティブな感情は心身の痛みを癒す。
③ 共同体感覚と勇気づけをしっかり理解し、心身の常備薬に!

次回 第137回の開催は、9月21日(土・札幌市民交流プラザ)、22日(日・ZOOM)です。
テーマは アドラー心理学の認知論とマインドフルネスの「ライフスタイルとマインドセット」~思い込みで世界はどう変わる?~ です。ライフスタイルとマインドセットの意味合いは、認知という理解に近いものです。天才と努力家の捉え方次第で、あなたのライフスタイルがわかるかも!? あるいは変わるかも!? ご参加をお待ちしています!

⇒ 詳細とお申込みは、こちらから。


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