アドラー心理学研究会Plus代表の佐高葵月代です。2022年3月19日(土)と20日(日・ZOOM)、第107回アドラー心理学研究会を開催しました。札幌の雪も春らしい陽気に徐々に融けていくのが目に見えています。長い冬の寒さに凍えていた身体も、そろそろ目覚めそうです。上の写真は大好きなマグノリア(モクレン、こぶし という呼び名もあります)です。東京方面では3月~5月にかけて咲く花です。
さて今回のテーマは「アドラー心理学の横の関係」と、後半は「マインドフルネスとレジリエンス」です。「横の関係」は、アドラー心理学の基本前提には入っていませんが、基本前提と2つの思想的概念である「共同体感覚」と「勇気づけ」を橋渡しする重要な要素です。
アドラー心理学における横の関係とは、
- 国や思想や年齢や性別が異なっていても、相手が人間である限り、まったく対等の仲間として、一緒にくらしていく協力者として、相手の立場を認め、互いに尊敬しあう関係のこと。相互尊敬は、まず自分から相手を尊敬すること。
- 勇気づけできる人間関係においては、役割や責任の違いを認めても、人間の尊厳に違いないことを受け入れ、横の関係をもとに対等の関わりを持とうと努力する。
- 横の関係は、共同体感覚の下に成り立つ。横の関係は支配しようとしない。横の関係とは対等な関係。
1の「尊敬」は、相手を敬い奉るという意味ではなく、相手の存在を認めるという態度のことです。当然、社会においては、責任や立場上での上下関係や、家族においては親と子という育児や経済的な責任は存在します。横の関係とはそれを踏まえつつも、お互いが共同体のメンバーであること、お互いが協力し合い、信頼関係を築きながら共同体を運営するという意識を持つことを言います。
次の内容は、今回の研究会では話さなかったものですが、2日間の日程を終えて思い出したので記しておきます。
以前、国際結婚をしてご主人と1歳のお子さんと3人で暮らす女性と、横の関係について話したことがありました。「夫が子どもに『We are the team!(僕らはチームなんだよ)』とよく話しかけているんです」とその方はおっしゃっていましたが、まさにその通り!
ある日、子どもが粗相をしてしまい、疲れていた彼女はつい声を大きくして叱ってしまい、子どもは大泣きをし、自己嫌悪に陥った彼女は部屋を飛び出してしまったそうです。その時ご主人が後始末をして、子どもの面倒を見ながら彼女を待っていたそうです。ご主人は「彼(子ども)は、カップを振り回すとスープが飛び散り、ママが困るという体験をしていなかった。それは食事中にしてはいけないよ、ママが後片付けで困るからね。食べるときはカップは両手に持とうね。食べたくないときは、ちゃんとイヤだと僕に伝えてね」と忍耐強く子どもに話したそうです。おそらく同様のことを繰り返しながら子どもは学ぶのでしょうが、それを聞いた彼女は「叱る」ことが縦の関係で支配していることになるのを学んだと話していました。ご主人曰く「彼はまだ経験が多くないから、いわゆる失敗を繰り返すかもしれない。でも僕らはチームでしょう。チームのメンバーが失敗したら、周りがフォローするのは当然だよね」と話したそうです。それ以来、彼女は少し忍耐強くなり、粗相を「失敗」と呼ばずに「ちょっとしたエラー」と呼ぶことにしたそうです。
そしてイライラした時は、いったんその気持ちを受止めてから、セルフ・コンパッションのスージングタッチをして「叱ることに代わる、今の自分ができること」を意識するようになったと話していました。
このエピソードから、親は親としての体験を、子は子としての経験を積みながら、ひとつの共同体で成長していく仲間同士、という感覚が伝わってきました。家庭内のみならず、職場においても丁寧に忍耐強く伝えることが、横の関係の第一歩ではないでしょうか。
「関係」とはコミュニケーションです。アドラー心理学は、対人関係において協力的コミュニケーションを大切にします。感情を振り回したりぶつけたりせず、相手に伝わる言葉や態度や気持ちを伝えることで、お互いの関係性が深まり、横の関係に近づけます。
「横の関係ができていたり、うまく行っている関係には、どんな要素が存在する?」というグループワークでは、次のような特徴が出されました。
会話の機会が頻繁につくられる、同じ目標や視点がある、信頼関係がある、話し方が安心できる、相手への言い方にワンクッション置くようにする、相手を楽しくさせよう!を心掛ける、お互いの違いを楽しむ、(子どもなどと)同じような言葉を使う、劣等感を感じない、個性として受け止められる、(子どもに対して)親の立場を振りかざさず人として関わる、感情のコントロールがお互いにできる、(親の介護に関して)自己犠牲ではなく自分の役割を全うする姿勢で向き合える、好奇心を持ってお互いを認め合える
この中で、「同じ目標や視点がある」ことは、結果的に信頼関係(相互信頼)に繋がります。大きな目標でなくても「家を建てる」「ペットの面倒を見る」というのでも良いと思うのです。共同体を運営するメンバーのひとりとして、「自分には何ができるだろう?」と問いかけてみるのも良いでしょう。
共感ベースのコミュニケーションのコツとして、
- 腹の探り合いは、妄想を拡大させるだけ!相手の思っていることは、相手に聞かないとわからないので、疑心暗鬼になったら妄想せずに相手に聞いてみましょう。
- 近しい関係ほどありがちな「こんなこと言わなくてもわかるでしょう」「そのくらい察してよ」は無理なお願い。意思疎通には、言葉によるコミュニケーションが必要です。
- 「これが当たり前」という思い込みは注意が必要!相手も自分同様、変化し成長している存在です。以前とは価値観は変わっているかもしれません。「あなたのため」や「あなたの幸せを思って」が余計なおせっかいにならないように。
横の関係の特徴は、「お互いに」次の8つのことができることです。
- 尊敬すること
- 信頼すること
- 協力できること
- 共感すること
- 理性的に問題を解決すること
- 主張的であること
- 平等であること
- 寛容であること
これらのことは、共同体感覚を作るきっかけになります。
後半は、「マインドフルネスとレジリエンス」です。レジリエンスとは、ストレスに対して柔軟な姿勢で臨める心の筋肉のこと。多少ストレスに揺らいだとしても、元のコンディションに戻れる回復力のことです。今回は、マインドフルネスとレジリエンスの関係についてお話しました。
マインドフルネスとは、過去や未来にとらわれず、今この瞬間に心を集中し、それに対する思考や判断にとらわれることなく、あるがままの姿に気づき、受け入れる心のありようです。自分が何を考え、感じているかを大切にする自己共感を行うことで、自分がないがしろにされていない、自分に思いやりを持って接しているという安定感を生み出し、レジリエンスと柔軟性の基盤が作られます。
レジリエンス育成を阻むものとして、失敗したことによる被害者意識や挫折感、自己批判から生まれるネガティブな感情があります。自己共感を意識したセルフ・コンパッションとマインドフルネスを実践することで、自己批判に気づいて止めることができたり、ネガティブな感情を変える認知の変容が起こり、結果的にレジリエンスが強化されます。
ダニエル・J. シーゲルは著書の『マインドサイトによる新しいサイコセラピー』の中で次のように述べています。
マインドフルネスの実践は、気分を調節する脳の部位の成長を促して強化し、その結果、精神状態が安定し、情動のバランスが戻り、レジリエンスが獲得されるのではないか。共鳴回路と呼ばれるニューロン群が、マインドフルネスによって成長するのではないかと思われたのです。前頭前野中央部も含む共鳴回路があることによって、私たちは他者に共鳴することができ、自己の調節もできるのです。
前頭前野中央部の9つの機能として、①身体の調整 ②相手と波長を合わせるコミュニケーション ③感情のバランスの維持 ④恐怖心の調節 ⑤反応の柔軟性 ⑥洞察 ⑦共感 ⑧倫理観 ⑨直感 があります。これらの機能は、幸せと心の健康に強くかかわると考えられているもので、瞑想などで心の中を見つめた時に強化されると言われます。
どんな筋肉もいきなり強くなるのではなく、徐々に強さが備わっていきます。レジリエンスも心の筋肉同様、意識的に鍛えていく必要があります。自分の強さを阻むものをまず止めること、そして良いものを取り入れることから始めるのが必要です。そして気がつくと感情のあらわれ方が変わっていたり、心の平安を保てる時間が長くなっているのに気づくかもしれません。心の強さは身体の筋肉のように鏡に映して確認できない分、心の鏡を磨きながら、ありのままの自分に気づき、受け止めていきたいものです。
今回のマインドフルネスとレジリエンスはとても好評だったので、折を見てパート2をやってみようと思いました。
今月のまとめです。
- 横の関係は協力的コミュニケーションであり、共同体感覚に繋がるもの。
- レジリエンス育成には、マインドフルネスとセルフ・コンパッションが不可欠。
- レジリエンスは脳機能の変化を伴うもの。集中と時間を惜しまず実践あるのみ!
次回のテーマは「アドラー心理学の目的論」「感情がもたらす心身の緊張へのマインドフルネス的アプローチ」です。
開催日は、4月23日(土・札幌市民交流プラザ)、4月24日(日・ZOOM)です。
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